今回お話を伺ったのは、株式会社Clover出版の代表を務める小田実紀様。株式会社Clover出版は、書籍の出版だけでなく、動画配信や著者のブランディングまで幅広く手掛けるユニークな出版社です。
会社設立の経緯や、会社が目指すもの、そして今後の展望について、インタビューしました。
僕たちが書き手に寄り添う出版社である理由
ーー会社設立の経緯について教えてください。
Webマーケティングを専門としていた現会長と、編集者だった僕が、出版+Webマーケティングという組み合わせで起業したのがこの会社です。
出版業界というのは、作った書籍が実際に書店に並ぶまで、売れるかどうか分からないというイチかバチかの世界です。マーケティングもしなければプロモーションもしない。書店に並べてたまたま売れたものを売り伸ばせば良いというのが、これまでの出版社でした。
また、この業界はとにかくネットに弱い。いまだにファックスを多用しますし、このオンライン社会に、受注のために営業マンが店舗を足で回っていたりもします。このような業界に、メールマガジン・Facebook・Twitterなどを持ち込み、書籍を販売したいというのがそもそもの始まりでした。
書店も、書店へ行く人の数も減少している時代です。本屋へ行く習慣が全くない人の方が多いでしょう。それでは本を読まない人たちはどこから情報を取るのか。それはパソコンやスマートフォンです。僕たちが思い描いていたのは、Web親和性の高い、新しい出版社像でした。
ーー「総合商社的出版社」を自称されていますが、これはどういった意味でしょうか?
本来は、書籍は読者の物であるべきで、出版社は読者の方を向くというのが一般的な考え方ですよね。でも我々はどちらかというと、読者よりも著者の方を向いた出版社なんです。
通常、出版社というのは、著者に本を執筆してもらい出版したらそれでおしまいです。しかし当社は、著者・クリエイターの魅力を様々な形で引き出す、あるいはその才能を伸ばすことに重点を置いています。
例えば、本を出版するだけではなく、著者による講演会を開く・動画講座を配信する・ライブ配信を開催するなど。動画やライブというのは、その人の声質や雰囲気といったものが届きやすい手段です。活字のみでは通じなかったニュアンスが伝わり、それがいわゆる「人柄」として読者に刷り込まれる。これが意味のある時代だと考えています。
一つのコンテンツや著者にさまざまなアウトプット方法を与えるというのが、僕らの目指していることであり、「総合商社的出版社」の意味するところですね。
ーー「読み手よりも書き手の方を向く」とは新しい考え方ですね。そうするのはなぜですか。
読者のことだけを思うなら、役に立つ本を作るのが一番です。例えば「5分で美味しい朝食を作る方法」という本があったとしましょう。その方法さえ知ることができれば、読者にとって、その書き手が誰であるかは重要ではありません。役に立つコンテンツ自体に価値があるわけで、著者は誰でも構わない。これが読者ファーストのコンテンツビジネスのあり方です。
しかし、アイドルなどのファンコミュニティビジネスを考えてみてください。歌の上手い下手などはファンにとってどうでも良いことで、「その人が歌っている」という事実が重要ですよね。これがファンコミュニティビジネスの形態であり、読者ファーストな書籍とは正反対の在り方です。
動画やライブは、その人のビジュアル・声・在り様といったものを、活字媒体以上に伝えます。すると、コンテンツに興味があって見始めた人たちが、いつの間にかコンテンツよりも人のファンになっていく。そういう媒体がいまメディアの中心になってきています。読者だけでなく発信者の方を向き、彼らをいかにビジネスに巻き込んでいくか。ここに、出版不況の中で僕たちが生き残るための道があると考えているのです。
誰もが発信手段を持てるSNS社会は、もはや『読者=著者』なのです。著者の方を向くという理由の神髄はここにあります。だからこそコンテンツはさらに広がり、新しい価値を社会に投げかけることになるのですから。
熱いファンを抱える著者を求めて
ーー貴社がプロデュースしている著者は、主にどのような方々ですか。有名な作家が多いのでしょうか。
僕たちは、完全に出来上がった人には声をかけません。プロデュースするのは全てブレイク前の人たちです。
実績ある著者というのは、まだまだ売れると自分を過信してしまうものですが、実際そこまで売れるものではありません。それよりも、これから駆け上がっていく人たちの方が面白い。
僕はブログやYouTubeを見て、これからブレイクする人をキャッチするのが得意なんです。特にコンテンツ内容がスピリチュアル・心理関係で、著者が女性の場合、かなりの確率でその予感は当たります。2014年に大ヒットした「『引き寄せ』の教科書」という本は当社のプロデュースなのですが、いまやベストセラー著者の奥平亜美衣さんも元々は無名の一般の方でした。
ーースピリチュアル関係の書籍を多く取り扱っていらっしゃいますね。それはなぜですか。
スピリチュアルの読者というのは、著者を好きであるパターンが多いからです。つまり、すでに読者のファン化ができている。たとえて言うならば「地下アイドル」ですよ。マニアックだけど、ファンは激アツなんです。
これは物を売る上で最も重要なことです。いくら知名度が高くても、カルト的なファンがいなければ物は売れません。スピリチュアルという分野はファンが熱い。ビジネス書だったら、読者の男性サラリーマンが著者に対して熱を上げることってほぼないでしょう。こういった熱いファンがゴロゴロいるのが、スピリチュアルというジャンルです。特殊ですね。
ギャンブルはもういい 目指すのは着実な経営
ーー小田さんにとって、本の魅力はどのようなものだと思いますか。
日本では、本一冊が1,500円ほどで買えてしまいますよね。でも、本当に良い本に当たると、「これ、本当に1,500円で売ってしまっていいんですか!?」という情報に出会ってしまうことがあります。
先日ある投資に関する本を読んでいたのですが、投資の最大の肝の部分を明かしてしまっている内容が書かれていまして…。大きなお金を払っても聞けるか分からないような話ですよ。1,500円、2,000円という値付けは完全に経済原理を無視していますね。
僕はもともと語学書の編集者でしたので海外への興味が強かったのですが、欧米の一部の国では、図書館文化が発達していて書店が極端に少ないという話を聞いたことがあります。なぜなら本が日本よりはるかに高価で、その価値が認められているかららしいのです。一冊の本が持つ価値や権威を正当に評価しているところには、文化の成熟を感じます。
本というのは、その情報量や保存力が他のメディアとは異次元に違います。そういった「情報の深さ」を軽んじることは、時代の変遷とは言え、虚しいことではあります。価値を正当に評価できない国が富めるとは思えないからです。
ーー事業拡大に向けて、協業したいのはどんな相手ですか。
人を集められるサイトや仕組みを作ることができるWeb関係の企業や人です。
僕たちがなぜ著者にこだわるかというと、著者に熱いファンがいて人を集める力があるからです。自社でSNSを鍛えるなどし、人を集められるような環境を作りたいので、例えば、そうしたサイト構築のコンサルティングをしてくれる企業や、サイト構築ができる人と組みたいですね。
ーー今後の展望について聞かせてください。
まず、社員が将来設計を立てられるような安定感ある経営をしたいという思いがあります。一発当てるかどうかの世界で散々やってきたので、そういうのはもういいかな(笑)。太い野心があるかというとそうでなくて、着実に利益を生む安定感のあるビジネスモデルを作ることの方が僕にとっては価値があります。
どんなことに対しても、着実で地道であること。そして公平であることです。それを軽んじてまで成長しようとすれば、何かを失うことでしょう。何かを握れば、手のひらにあったものがこぼれ落ちます。それが社員や、弊社が大切にしてきたリソースであっては絶対にいけません。
もっと有能な経営者であれば「世界観が激変するメディアを創る」などと、大言壮語を披瀝するのかもしれませんが…これだけモノが溢れていれば、あるもので満足する力や感受性の方が重要ではないでしょうか(笑)。いまや次から次へとコンテンツが生まれ死んでいきます。次から次へと著者が生まれ消えていきます。それで本当に良いのでしょうか。
弊社は著者にさまざまなアウトプットを準備して、価値を拡大するお手伝いをしています。著者と長いお付き合いをし、人気に飛びつくだけの打算を排除し、本当に価値あるものが評価される環境を創出します。それこそが公平で成熟した社会にほかならないと考えるからです。
<株式会社Clover出版>
代表者:小田 実紀
設 立:2014年10月16日
本 社:〒101-0051
東京都千代田区神田神保町3丁目27番地8 三輪ビル5階
HP :https://www.cloverpub.jp/
[公開日]2021年7月26日
[取材]福丸 香緒里 [著]福丸 香緒里